ミライボのさいとうです。
2023年6月2日から3日にかけて、台風2号と梅雨前線の影響で発生した線状降水帯によって雨雲が停滞し、2時間で200ミリ以上の豪雨によって、601棟が被災した茨城県取手市双葉。幸いにも人的被害はありませんでしたが、雨によって大きな被害を受けた地域です。
以前、インタビューをさせて頂いた災害支援団体『四番隊』が双葉に支援に入ったことがキッカケで、代表のよんさんから双葉の自治会長である中尾さんをご紹介いただき、当時の状況から、復興に至るまでのお話を伺う事ができました。
どのような被害状況だったのか? 災害時の自治会の役割とは? 具体的にどのような事に困ったのか? などのお話しを、ボランティアを行ったよんさんも交えて聞いてきました。
1.どんな災害だったのか?
―― 浸水した日の町の様子、天候などはどのような感じでしたか?
中尾会長:6月2日の夜からずっと降っていたんだと思います。市によりますと、午後11時59分に洪水警報発表となってたので、その時間帯にまた降り出したのだと思います。
町の両端に堀があるんですけど、この時期はちょうど田んぼに水を張る時期で、お水が溜まってたんです。そこに雨が降ったので溢水(いっすい)したって感じですね。
―― 避難指示は出ていたんですか?
中尾会長:避難指示は出てなかったんです。土砂崩れなどに関しては防災無線からの放送があるんですけど、洪水・浸水に関しては全く無かったんです。このことがあってから、洪水警報も防災無線で流してくれるようになりました。
―― 水はどれくらいで引きましたか?
中尾会長:6月4日の日曜日の午後2時ころから徐々に引き出しました。1番ひどいところで3日間、水が引かなかったと聞いてます。人的被害が無かったこと。停電しましたが、6月で冷房が必要無かったこと。漏電で火事が起きなかったことは良かったです。
2.自治会や町会ってどんな対応をするの?
―― 災害の直後、自治会としてはどのような対応をしたのでしょうか?
中尾会長:何をやったらいいのか本当にわからなかったです。その中で、とにかく市役所に今の状況を伝えていました。例えば、避難指定場所まで行くことができないので、マイクロバスなどを手配して欲しいとか、飲み物や毛布を届けて欲しいとか、とにかく今の状態を見に来て欲しいとか、そういうことですね。
取手市は大きな災害が初めてで、市の職員さんも「今やってます」ばかりで、対処の方法がわかってない様子だったので、できるだけ細かく要望を伝えました。
―― ご自身も被災されている状況で、自治会長として活動しないといけなかったと思いますが、具体的にどのような点が大変でしたか?
中尾会長:その年に会長になったばかりで、自治会自体をどうすれば良いかわからない状態でこのような災害が起こったので、何をしたら良いのか全くわからなかったです。
だから、とにかく市役所に電話するしかないなと思って、皆さんのいろんな意見を聞いて、その要望を漏らさないように市役所に届けて、少しでも市に動いてもらおうとしてましたね。
よんさん:住民と役所のパイプ役なんだよね。だから俺らも敢えて自治会に要望出して、市役所や社協からフィードバックしてもらってる。例えば、ボランティア用の簡易トイレを用意して欲しいとか、倉庫を用意して欲しいとかね。
中尾会長:ボランティアさんの他にもトイレを使えない人がいたので、よんさんたちが要望を出してくれたお陰でたくさんの人が助かったんですよね。そんな風に私たちが分からないっことを教えてくれたので、すごい良かったです。
3.困りごとはどう移り変わっていくのか?
―― 困ったことについて伺いたいのですが、被災直後から現在に至るまでの困りごとがどのように推移していったのかを教えて頂きたいと思います。 まずは、氾濫の被害直後に困ったことは何でしたか?
中尾会長:1番最初に困ったのは、住民の人たちの移動手段ですね。ここは昔から水害があったので、皆さん母屋は嵩上げしていましたけど、駐車場は道路の高さのままなので100台近くの車が水没してしまって、、、避難所に行くにしても手段がなくて困る方が多かったですね。
―― 確かに、駐車場を嵩上げしちゃうと普段の生活がしにくいですからね。
中尾会長:そうなんです。家とか土地だけ上げておけばいいと思ってたんですけど、まさかこんなことになるなんて、、、50年住んでて初めてだって声が多かったです。
よんさん:そもそも、避難所の場所がちょっとおかしいんだよね。徒歩で行けるところに避難所がない。
中尾会長:避難所はグリーンスポーツセンターって言って、市役所の方なんです。
(Google mapで検索すると・・・)
―― 徒歩で2時間かかるじゃないですか!?
よんさん:そうそうそう。途中に川もあるし。だから、誰も行けない。
―― それは酷いですね、、、
中尾会長:それに、買い物にも困りました。車が無くなってしまった方や、高齢の方だと買い物がなかなかできない。買い物を何とかして欲しいって要望があったので、その時は一時的に移動販売を頼んだんですね。
―― 会長が頼んだんですか?
中尾会長:市役所を通じてスーパーがやってくれました。
―― 移動販売をお願いしたのっていつぐらいですか?
中尾会長:それはすぐでしたね。6月14日に移動販売開始してます。車が使えない人ばかりでしたので、それはもう早急にやってもらいました。1か月くらいしか無かったんですけど、週2回を4週に渡ってやっていただいたんですね。
―― その後、買い物など車が必要な時はどうされていたのでしょうか?
中尾会長:カーシェアリング協会※が19台、車を出して下さって、我が家も1台借りました。あれがあったお陰で本当に助かりました。皆さん、突然のことだから車なんてすぐに買えないしね。
(※日本カーシェアリング協会:寄付車を被災者が無料で利用できるシェアカーとして貸し出すサービスを行っている協会さんです)
よんさん:それに金があってもダメだからね。
―― 物がないと買えないって事ですね。
中尾会長:カーシェアリングがあったお陰で、皆さん使いながらゆっくり買い替えられました。
―― カーシェアリング協会さんからはどれくらいの期間借りることができるんですか?
よんさん:カーシェアリングは自己申告だから。
中尾会長:そう。うちも8月の末から10月まで約2か月借りましたね。
―― 期間が決まって無いんですね。それは、心強いですね。車の問題が解決された後は、どのような問題が生まれてきましたか?
中尾会長:8月9月頃になってから、カビとか、臭いとかの問題が出てきましたね。
よんさん:カビって外から見えるもんじゃないから、壁の中に生えてくっから開けないとわかんないわけです。生えてるか生えてないか分かんないカビのために、壁を壊すってね、やっぱり普通躊躇するから。そのカビが表に出てきて初めて「これ、何だ?」ってなるんだけど、そうなるともう、大変なことになってる。
―― そうなると四番隊さんの出番ですね。
よんさん:で、俺らね、コミュニティ作りっていうか、住民と手っ取り早く仲良くなるために、毎朝ラジオ体操会をして、来てくれた人にハンコついて、10個ハンコ貯まると何かもらえるとかってやったのさ。そうすると、あと2個だから絶対行こっみたいになるの。こっちは運営側だから、来る人と顔馴染みになるし話すわけ。
話すきっかけができた時に「何か困ってない?」じゃなくて、「何か困ってる人いない?」って感じで聞くわけさ。これ聞き方のポイントなんだけど。
―― へー、困っている人を知らないか?って聞くんですね!?
よんさん:そう。そうすると「あそこのお母さんが何とかで、、、」って話になるんだ。じゃあ行ってみないといけないな。繋いでくれる? とか話しながらそこに向かう間に「ところで家大丈夫だった?」みたいな話すると「いやー、実はさ、、、」みたいな話になる。やっぱしおめーも困ってるじゃんみたいな。(笑)
中尾会長:やっぱり被災された方って、気持ちが沈んでしまった方ばかりで、もうどうしていいかわからないって方も多かったんですけど、四番隊さんは明るく、作業しながら笑い声が聞こえてきてたので、それで嬉しくなったとか、見てて楽しかったって意見が多く聞こえてきました。
―― 明るく作業すると不謹慎とか言われそうな気もしますけど、明るく、にぎやかな方が良かったんですね!?
中尾会長:作業だけじゃなくて気持ちまで明るくしてくれて、本当にありがたかったって。それに、住民のことを考えて、皆さんにいろいろ声かけて下さいました。被災された方へ声掛けってのは本当に必要だと思いましたね。勉強になりました。
支援の第一歩は「声かけ」
―― これから被災をするであろう他の町会や自治会にアドバイスをするとしたら、どんな事がありますか?
中尾会長:どこも、高齢者の方が多くなっているので、必ず声をかけて、不安にさせないで欲しいってのが1番ですね。一声かけてあげると不安飛んじゃうから。「私のことも見てくれてるんだ」っていうね。自分が知らない人なら、隣の人とかにちょっと声かけてあげてって言って、1人にしないであげて欲しいってことが今回良く分かりました。
よんさん:挨拶だけでもいいから、とにかく声をかけて、できれば名前を呼んでやってね。
中尾会長:何でもいいから「何かあったら言ってね」ってその一言がやはり大切だなって。勉強になりました。
―― 被災地に行くと、支援を待っている人がボランティアさんに「ウチはこれやって、ウチはこれをー」って次から次へと要請があるものだと思っていたんですが、そうではないんですか?
中尾会長:困ってること何かありますか? と聞いても、被災者は何をどうしてもらったらいいのか分からない。その場ではね。それを言えるようになるのも、時間が必要でしたね。
よんさん:壁に穴開けるとかって、想像がつかないからね。コッチからいろいろ提案してやんなきゃいけないだけど、その提案に乗っかるかどうかはその人次第だし。
それと困るのが、ボランティアに入ろうと思って、さてやるかぁって時に、遠くに住んでる息子や娘に聞いてからってやつ。結構あるんですよ。で、息子がどっか頼んだらしいって話になるんだけど、全然来ねーんだよね。
中尾会長:だからね、被災した人には、これからいろんな費用がかかるんだからね、ボランティアさんにやってもらった方が、後々の費用面でもいいってお話しすることもありました。それで初めて、わかってくれる人もいましたね。
特に年配者は、自分から「何かをやって欲しい」とはなかなか言い出さないようで、声掛けは、そういった年配者にとって、大切なアクションだそうです。
それでも年配者が何かを要求してくるまでには、かなりの時間がかかるようです。お2人のお話しでは、まず人間関係の構築に時間がかかり、次に何に困っているのかを本人が理解するのに時間がかかり、最後に決断までに時間がかかるということでした。
物への対応はスピーディーに行えるけど、人への対応は時間がかかる。災害対応とは、そういう一面もあるようです。
まとめ
洪水警報が出ていなかったことには驚かされました。市には確認していませんが、洪水警報を出さない自治体ってあるのでしょうか、、、
洪水の被害に遭ったら、まず真っ先に家の被害の事で困るのかと思っていましたが、自治会や町会が直面する困りごとは、住民の移動手段や買い物といった当たり前の日常が送れないことへの対応なのだと気付かされました。
中尾会長に、次、同じような状況になったらどうしますか? と尋ねたら、
「車に乗って、早い時間に避難するように呼びかけます」
と仰っていました。その避難は空振りになるかもしれませんが、それならそれでいいとボクも思います。でも、空振りを多くの人は面倒だと思ってしまう。それで、車がオシャカになったり、最悪亡くなってしまうのに・・・
このような経験をしたとしても、それを伝承していくのは難しい。それは人間の特徴でもある正常性バイアスの仕業なので仕方ありませんが、その特徴に抗うにはどうするかを考えておくことは必要だと感じています。
お話を伺っていて、会長さんとよんさんの関係が非常に良いことに気付かされました。後編では、どうしてこんなにも仲が良くなったのか? を聞いてみたいと思います。