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2025.08.14 幼稚園を襲った豪雨 vol.1|『補助金申請』が思った以上のハードルだった件

ミライボのさいとうです。

2023年6月2日から3日にかけて、台風2号と梅雨前線の影響で発生した線状降水帯によって雨雲が停滞し、2時間で200ミリ以上降った雨によって601棟が被災した茨城県取手市双葉。

そのエリアにある「つつみ幼稚園」も床上浸水の被害に遭いました。

幼稚園が水に浸かってしまい、しばらくの間は園の施設が使えない状況が続いたそうです。その中で、どのように業務を行い、どう復興してきたのか? お話を伺ってきました。

左から よんさん、小川先生、千葉理事長、千葉先生

今回、インタビューをさせて頂いたのは、
【認定こども園 つつみ幼稚園】
・理事長 千葉 和子さん(以下、理事長)
・小川 祥子さん(以下、小川先生)
・主任 千葉 康成さん(以下、千葉先生)

【四番隊】
・伊藤 純さん(以下、よんさん)

以上の4名です。

【目次】

幼稚園の業務として大変だったことは?

Q:浸水した日の幼稚園の状況を教えてください。

千葉先生:天気予報で大雨になるとのことだったので、保護者には早めのお迎えをお願いして、職員にも早めに退勤するようにしてもらいました。浸水したのは、6月3日の朝3時ころです。朝には床上40~50センチまで水が上がっていました。
通常なら土曜保育があるのですが、とても保育できる状況ではなかったです。職員には安全を優先して休むように連絡して、保護者や子供たちには保育ができない事実をお伝えしました。園の状況を確認したくても床上浸水していて中に入ることもできず、家からも出られない状況でした。

Q:幼稚園の通常業務として大変だったことは何ですか?

理事長:何より子供たちのことですよね。

小川先生:1階の教室が全部使えないので、子供たちをどう受け入れるのかが大変でした。同じ取手市の中でも何ともないところもあって、「幼稚園が水害で床上浸水になってるんです」って連絡を回したらビックリしている人もいました。

理事長:幼稚園部はお休みしてもらって、保育部はお母さん方が働いてらっしゃるので、3か所の他の園に分けて預かっていただきました。職員も一緒に3か所に分かれて何名かずつ行きますから、ここに残っている職員がいないんですね。片付けの職員がいなくて大変でした。

―― 子供たちの預け先が決まるまで、どれ位の時間がかかったんですか?

千葉先生:保育園部は2、3日でした。幼稚園部に関しては、1か月くらいお休みさせていただきました。業務で大変だったのは、3か所の園に職員を分配したので、早番や遅番を3か所分用意することですね。連絡事項も3か所に連絡しなきゃいけなかったりとか、兄弟がいると保育園の分け方も難しかったです。

小川先生:給食を運ぶのも大変でした。

千葉先生:激甚災害じゃなくて大規模災害だから、給食を運ぶのはダメって言われたんです。

―― それがもともとの運営ルールなんですか?

千葉先生:厚生労働省のガイドラインで、原則、自園調理が義務付けられているんです。

Q:園児たちの園生活に、相当イレギュラーな対応が求められたと思いますが、災害が発生してしまった時はどう対応するのか、決まっていたことがあれば教えて頂けますか?

千葉先生:園児がいる時の避難訓練は毎月行っています。まずは園児の命を優先して、どういう風に避難するのか? というのは考えているんですけど、正直、命の保証ができた後の、その先のことまでは考えて訓練していませんでした。

―― 水害の訓練もしていたんですか?

千葉先生:小貝川が氾濫した設定でやってます。増水した時は2階に避難するというのはあって、非常食だったりとか、災害用品とかを一緒に上に持っていく訓練は毎年やってるんですけど、災害後というのを考えては無かったです。

もしも被災前に戻れるとしたら?

Q:もし、水害に遭う前に戻れるとしたら、どのような対策をとりますか?

小川先生:大雨が降ると知ったらすぐに、教室の下の棚にある物を上にあげたり、大事な書類も上に。とにかく、下にある物は上に移動しておきたいです。

千葉先生:書類もデータ化してクラウドに入れておけば良かったですよね。

小川先生:コンセントの位置も高くしておけば良かったです。

千葉先生:コピー機はダメでしたね。

―― コピー機はダメ? それ、どういう意味ですか?

千葉先生:印刷が薄くなっちゃったり、ところどころ印刷されなくなったり、ちゃんと使えなくなってしまったんですけど、完全に使えなくならないと補助が下りないんですよ。

小川先生:本当に写ったり写らなかったりなんですけど、コピー機が動いて写ったらもう補助されないんです。

理事長:すごい高い、100万円近くの物がダメって言われちゃったもんだから・・・

よんさん:家もそうだもん。半壊、準半壊、一部損壊いっぱいあるけど、中途半端だったら徹底的に壊れて欲しい。

―― 綺麗に複製できるというコピー機本来の性能がダメでも、それだけでは補助してもらえないんですね、、、

小川先生:あと、段ボールに入れた物が分からなくて大変でした。ボランティアさんも手伝ってくださるので、どこの何が入ってるかわからない段ボールがどんどん積み重なっていくんです。なんとなく何が入ってるってのは書くけれども、なんとなく過ぎて、、、いざ探したら見つからなくて、開けては閉じて、開けては閉じてを毎日やってました。

千葉先生:置き場所もやっぱり無いんですよ。1階が全部ダメになったので、2階しかない。

小川先生:でも災害のときは段ボールは重宝しました。知り合いから何百枚も貰って、それが机になり、入れ物になり、いろんな役に立ちました。

補助金(児童福祉施設等災害復旧費国庫補助金)について

Q:先程、補助金の話がありましたが、補助金の申請についても教えてください。

千葉先生:壊れた写真を撮っておかないといけないんですけど、災害中、もの凄い数の写真を撮らないといけないというのが大変で。

よんさん:ペンの1本から撮らないといけない。

―― えー、そうなんですか!?

小川先生:被災した当初、お手伝いに来ていただいた方と一緒に、被害に遭った物を外のトラックに積み込んで、そのまま決まった場所に処分しに行っていたので写真を撮っていなかったんです。補助金申請には写真が必要だと後から知ったので、その時に処分した物は補助されませんでした。

千葉先生:写真を撮った物についても、3社の見積もりを用意しないといけないのが、素人には難しいものなんですよね。市役所からの説明では、Yahoo!、Amazon、楽天でいいよと。最低限必要な物で500点ほどあったので、掛ける3で1,500。かなりの時間がかかって、相当キツかったですね。

理事長:夜遅くまでやってたわよね。

小川先生:コピー用紙もすごい使ったよね。

千葉先生:それで、資料を出した後に「Yahoo!、Amazon、楽天でも、出店してる店舗が同じじゃ意味ないですよ」って言われて、、、

―― そういう無駄になる作業とか時間ができてしまうんですね。

千葉先生:国から査定する人が3人ぐらいで来たんですよ。書類を出して「大丈夫です」と言われていた物が、「ダメでした」みたいなのも、、、途中で、補助金いりませんって言っちゃいました。(笑)

小川先生:活きた災害の知識があるのは、ボランティアさん達でした。常総市のボランティアを経験した方は詳しかったです。

千葉先生:それでも、こっちは常総市の氾濫と違って大雨だし、向こうは激甚災害でこっちは大規模災害だし(令和5年8月30日に激甚災害に認定)、ましてや幼稚園だしで、何をどうしたら良いのか全然わからなかったですね。

小川先生:市役所の人が見に来て、被害状況を判断して、必要な物が何かわかったら、すぐに用意してくれたり、買ってくれるようにしてくれたら助かりますね。

よんさん:今すぐ欲しいからね。

小川先生:市の職員さんが「ダメになった物を写真撮ってください」って教えてくれたんですけど、写真さえ撮っておけば、すぐ処分して買い直してもお金出るんですか?って聞くと「いや、まだわかりません」って言われて、、、補償があるのか無いのか決まる前に買うべきかどうか? っていうのでも悩みましたね。

千葉先生:先を考えてしまって、余計な悩みがどんどん出てくるんです。

よんさん:早く復旧したいもんね。

理事長:そういう時は、ボランティアさんたちがいろいろ手伝ってくださって、教えてくださって、本当に助かったんです。皆さんが来てくださって、やっと落ち着いてきて、、、礼状書きたいと思っても名刺をいただいて無い人がいっぱいいるんですよね。申し訳ないけどそのままになってしまってます。

怪しいボランティアさんもいた?

―― ボランティアさんは、全て受け入れてきたんですか?

千葉先生:発災当時、すぐ来てくれてありがとうって思う人がいっぱいいたんですけど、その中でも「室外機安く売るよ」なんて言ってきて、他と比べたら高かったりとか、ちゃんとやってるのかもしれないですけど、ちょっと信頼できないようなボランティアさんの声掛けもありました。まぁ誰に頼むのかは運になってしまうかもしれないですけど・・・

よんさん:こればっかりはわかんないもんねー

理事長:でもいい人に恵まれたってことが、本当に幸せだったと思います。

小川先生:最初に常総からきたボランティアさんから紹介してもらって、繋がりのある人たちからいっぱい助けられてるんです。そこの繋がり人たちはもう間違いないね! って。

よんさん:そう言えば、知らないボランティアが「家族に話ついてっから」みたいな感じでここに来てて、話ついてんならいいかと思ってお願いしますって任せたら、誰も何も知らねえよみたいなのあったよね。

小川先生:だから、信頼できるボランティアさんがいたら、その人に「この人知ってますか?」って聞いて回りました。知らない人はお断りさせてもらいましたね。

―― ちゃんとしたボランティアさん同士は、既に繋がってるってことですね。なるほど!

小川先生:ボランティアさんの仲間にも、「あの人はこういう人だよ」って言うのを教えてもらってましたね。

まとめ

認定保育園には「児童福祉施設等災害復旧費国庫補助金」という、通常は声に出して読まないような補助金が用意されています。この補助金は、大規模災害なのか? 激甚災害なのか? で補助率が変わる補助金です。

テレビで「○○の災害は激甚災害に認定されました」なんてニュースを聞いたことがありましたが、今までは、「ふ~ん、だから何?」と鼻くそをほじくりながら聞き流す程度でした。それが、補助金の補助率に影響しているということを初めて知りました。

激甚災害に認定されるかどうかで、認められることが増えたり補助率が変わるのだとしたら、もっと速やかに確定して欲しい(取手市の場合には被災から約3か月後に激甚災害に認定)と思います。

支払われる補助金ですが、設備をグレードアップする費用は認めないのは分かりますけど、コンセントの位置を高くするのをダメとするのは、杓子定規すぎません!? だって、次に被災するような事があったら、損害が少なくなるんですよ!? そもそも、コンセントの位置が高いって、グレードアップとは思えないんですけど、、、

日本の政策は、ルールを決めたら頑としてそれを遂行するだけ。思考せず、ルールに従うだけ。感情が入ると査定がブレるとは思うので、その全てを否定はしませんが、本当に今の制度でいいのか? ということについては是非とも議論してもらいたいと感じました。

次回の記事では、建物の復旧で困った事についてまとめたいと思います。水害からの復旧の天敵は、いつ生えてくるか分からないアレだそうです。


Vol.2はコチラ ⇒ 幼稚園を襲った豪雨 vol.2|泥と乾燥・カビとの戦い…床上浸水からの”リアル復旧劇”

斎藤啓之

執筆者:斎藤啓之

1980年生まれ
両親の出逢いはテニスコート。男3人兄弟の長男で、3世代で暮らし、友だちから「サザエさんのウチみたい」だと言われるような家庭で育つ。
料理は全く出来ないが調理師免許を持っており、味噌が変わると判る味覚をもつ。
剣道の有段者なので、棒で人を叩くと逮捕される。
趣味は、高3の秋から始めた野球。甲子園を目指したことの無い野球人。
ほとんどの人にA型?と聞かれるO型。

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