興行収入70億円超。観客動員数500万人を超えたシン・ゴジラ。
正直、新たにゴジラの映画が上映されると聞いた当初は、何の興味も湧きませんでした(すみません)。
何故なら「シン・ゴジラ=怪獣映画」だと思っていたからです。ありもしない巨大生物が地球を破壊しはじめて、応戦してやっつける。そんな映画を齢35を超えてから観て面白いのだろうかと。いやー、無知でした。お恥ずかしい。
未だにそう思っている方は、是非見て頂きたい作品です。
何故、私がシン・ゴジラをオススメするのか。その理由は、日本を襲う巨大地震から助かる為のヒントが描かれているからです。(勿論、映画としてもかなり面白かったです)
では、シン・ゴジラから、どんな事が学べるのでしょうか?(多少のネタバレあります。ご注意下さい)
ゴジラとはいったい何なのか!?
映画を見る前の私のように、ゴジラを怪獣として捉えてしまうと、幼稚な映画だと切り捨ててしまう方も多いと思いますが、何かのオマージュとしてゴジラは描かれていると考えると、実に考えさせられる映画となりました。
私の思うゴジラのオマージュとは、ズバリ、東日本大震災です。
シン・ゴジラで描かれているゴジラは、地震であり、津波であり、原発の暴走といった、人の力ではどうにも出来ない「圧倒的で暴力的な力」でした。
ゴジラ=震災と仮定して観たことで、シン・ゴジラは単なる怪獣映画ではなく、社会的映画になりました。その映画で描かれていたのは、3.11で浮き彫りになった日本の問題点だと思います。
未曽有の事態に直面した政府の対応
シン・ゴジラの中で丁寧に描かれていたのは、人智を超えた被害(災害)に見舞われたときの、国のトップの「混乱と行動と決断」でした。
政府も時間と共に対策チームが作られ、次第に混乱に対応出来るようになっていくのですが、最初はただただ混乱するシーンにリアリティを感じました。
例えば、ゴジラの登場直後のシーンでは、
- テレビニュースで、東京湾で大きな爆発があった事を知る政府関係者
- 爆発直後は、誰もが怪獣には疑心暗鬼(そりゃそーだ)
- 消去法で海底火山の噴火の線で発表することが決まる(かなりいい加減・・・)
- 海中から不明生物の尻尾が現れ、発表を中止(そりゃそーだ)
- 発表するにしても、責任問題を恐れ、はっきり分かっていること以外は絶対に言わない(ずるいー)
- 市民を不安にさせない情報だけを公開。市民の不安を仰ぐ情報は発表しない(はい、情報制限のはじまり、はじまり~)
この辺りのシーンでは、私たち国民から見ると滑稽に思う手順を踏まなければ何も出来ないのが政府なんだなぁーと、諦めからくる失笑が会場からは漏れていましたが、こんなやり取りが3.11の時もあったのだろうと思うと、とても笑っていてはいけないと感じるシーンでもありました。
正確な情報 < 国民の不安の払拭
爆発直後、総理大臣をはじめとした大臣の面々が集まり、海上での爆発の原因を議論しています。
「原因は不明だが、海底火山の噴火の線で行きましょう!」とするシーン描いているのは、正確な情報よりも、国民を安心させる為に想定できるものの中で確率の高いものを選ぶという姿が描かれています。
ドラマの中では、ゴジラの尻尾がTV映像に捉えられるのがもう少し遅ければ、政府は海底火山の爆発と発表するところでした。
私たち市民は、例えそれが海底火山の噴火といった不正確な情報でも、一度安心をしてしまうと、避難をすることをやめてしまいます。
現実に置き換えて考えてみると、こんな感じ・・・
- Aさん:海底火山の噴火のニュースをTVで見ていた
- Bさん:SNSでゴジラの尻尾の映像を見た
この2人が町で会ったとしましょう。
B「おいA、お前見たか!?東京湾の怪獣!」
A「怪獣?」
BがAにSNSの動画を見せる
A「いやいや、誰かが作った映像でしょ?コレwww すごいよね。こんな動画がすぐに作れちゃうんだから。それにさっき、ニュースで海底火山の噴火って言ってたよ、ニュース見て無いの?」
―――
怪獣より海底火山の噴火の方が信ぴょう性はありますからねー。こんな感じで会話が進むと、2人は避難をしないかもしれません。
避難することを止めてしまえば、当然逃げ遅れる人が出てきます。それなのになぜ、政府は国民の不安を取り除きたいと考えるのでしょうか?
国民のパニックを恐れる無知な政府
真っ先に国民の不安を取り除きたい理由、それは、国民がパニックを起こさないためであり、パニックを起こした国民が更なる被害を発生させることを懸念しているからでしょう。
この考えは至極ごもっとものような気がしますが、みなさんは「パニック神話」という言葉をご存知でしょうか?
パニック神話とは、「災害の情報を正しく知らせれば必ず大きなパニックが起きてしまう」といった先入観(参考:wikipedia)
簡単にいうと「非常時になると多くの人間はパニックを起こす」という考えは間違いだという理論です。
災害心理の観点では、災害や事故が突然ふりかかっても、大勢の人が互いに踏みつけたり、押しつぶしたりして死傷者が出るようなパニックはめったに起こらないことが常識なんですね。
でも、それを組織のトップが知らなければ、正しい情報公開をする事でパニックが発生し、被害が増大化すると思ってしまいます。そうなると、パニックを恐れ、事実を隠蔽し、情報をコントロールする可能性が出てきます。
事実を隠蔽し、情報をコントロールする様子は、シン・ゴジラの別シーンでも描かれていました。
1回目のゴジラ襲撃の後、破壊された町の放射線線量が高くなったことを把握した政府と官僚。にわかに騒ぎ始めたネットでの線量情報の噂。これに対しとった決断は「線量も基準内だし、余計な混乱を招かない為に発表は控える」といったものでした。
3.11の時もきっとそうだったに違いない。自信から確信に変わったシーンでもありました。
実際に、東日本大震災の時には、我々国民の知りたい真実は隠蔽されていました。政府はメルトダウンをすぐに認めず、事故レベルを5としておきながら、1か月ほどして7に引き上げるといった対応を取りました。(下図参照)
それだけではなく、放射能物質の拡散を予測するSPEEDIの情報も非公開とし、事実は隠蔽されました・・・。
この事実に関しては、3.11当時、シン・ゴジラでは竹ノ内豊さんが演じた官職にあたる内閣総理大臣補佐官であった細野豪志さんは「市民に不安を与え、パニックが起きるのを恐れたため」と説明しています。いや、説明しちゃってます。
正に、起こるはずもないパニックを恐れ行われてしまった情報コントロールが、3.11の時には存在したと認めているのです。
国民にとって都合の悪い事実があった場合、政府は正確な情報提供を行わない(かもしれない)事実があったことを考えると、私たちが緊急時に正しい情報をTVやラジオを通していち早く得る事はとても困難ではないでしょうか。
とすると、大地震などの緊急事態が発生した時に真っ先に行う事は情報収集では無く、知識、経験、動物的勘などを総動員した、安全ファーストの行動でしかありません。
政府に頼らず、一人ひとりが行うこと
長々と政府をディスるような文章となってしまいましたが、私がお伝えしたいのはそこではありません。
お伝えしたいのは「自分の命は自分で守るしかない!」という事です。
本当にゴジラが日本に上陸してくるなんて事はきっとありませんが、ゴジラでは無くても、日本に甚大な被害をもたらすリスクは首都直下地震や富士山の噴火、テロや北朝鮮の核攻撃など数多くあるはずです。
そんな、日本が抱えているリスクに対して、東日本大震災の時の政府はどう対応したのかがシン・ゴジラでは描かれていて、この映画こそが、これからの災害対策の礎となっていくようにも思います。
映画では、ゴジラを止める為に、アメリカを始め世界から核攻撃を受ける事になった日本を救ったのは、紛れもなく日本政府と官僚の力でした。
この映画が3.11のオマージュであるなら、きっとあの時も原発を巡って政府関係者と官僚のみなさんは大変な努力をして日本を守ってくれたのでしょう。
政府は国という単位で数々の意思決定を行う必要があるので、どうしても情報の伝達や決定に時間かかります。政府や官僚、行政ではどうしようもない事は、私たち個人がどうにかしなければいけないのです。
これからどんな災害が襲ってくるかは分かりませんが、全てを政府や行政などに任せっきりにするのではなく、自分と、家族と、目の前の人たちの命に関しては、個人個人が責任を持つ以外ありません。
自分の命を他人任せにしない。普段平和ボケさせてもらっているので忘れてしまいそうですが、自分の命は自分で守る事は自然界の鉄則のはずですから。
まとめ
1)災害時の政府の対応は時間がかかる
政府は守るべきものが大きい=責任が大きい=それにそった決断をする
⇒時間がかかる
私たち個人が守らなければならないもの=自分の命、家族の命、目の前にいる人の命
⇒手の届く範囲に限られるので、決断は瞬時に行える
政府・行政からの避難の判断は時間がかかります。これは避難が必要なんじゃないか!? と思ったら、その直感を信じて避難しましょう。
政府・行政が避難勧告を発令したら道路は大混乱。その前に避難をすれば、比較的スムーズに避難が出来ます。
政府や行政に頼りきりにならず、自分の命は自分で守りましょう!
2)パニックを恐れた情報制限
「想定外」「未曽有」といった枕言葉が付く災害の時ほど、政府は第一に国民の不安を払拭しようとする可能性がある事を知っておきましょう。その為に、真実は隠されパニックを恐れて事態を小さく見せようとすることが考えられます。
3.11の経験から考えると、最悪の事態を想定をした情報が発信される可能性は低いように思います。
パニックにならないように事態を小さく見せた結果、大きな被害が発生した事故はアメリカの9.11や韓国の列車火災事故、セウォル号の沈没事故など、たくさんの事例があることも忘れてはいけません。
災害が起こってしまうと、みなさんのもとに届く情報は正しいものとは限らないという事を念頭において、安全な行動を選択して頂きたいと思います。
参考文献:人はなぜ逃げ遅れるのか(広瀬弘忠著)